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ゼロ金利政策の採用も、N先行パターンの一つだった。 そのNは当日、独自の議論を展開した。
すでに金利はゼロ近傍にまで低下している以上、単に金利を下げるだけでは、「金融政策の出尽くし感が出る」との判断からだった。 そこで、Nはマネタリーベースに目標を置いた量的緩和を目指すべきだとして、「無担保コールレート翌日物を極力低水準に抑制することにより、一層の量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る。

なお当初、同レートのメドは○・一○%とし、その後、低下するように促す」との案を提示した。 ゼロ評価は、歴史認識としては不十分な判断に基づくものと批判されてもやむを得まい。
新N銀法を踏まえると、旧法時代の歴史観に基づく『N銀百年史』の記述についても見直しが必要だ。 過去の政策の失敗の検証を通じて、現在にもっともふさわしい政策を選択する視点が求められるはずだ。
だが、この時のH発言からは、N銀理論だけでなく、N銀史観も変わっていないことが浮き上がった。 N銀の視点は、国債買い切りオペ増額の要求を退ける一点にかかっていたようだ。
それに対するゼロ金利の答えは、政府や政治が予想したものとは異なった。 だが、N銀の答えは思わぬ反響でもって市場と世論に迎え入れられた。
「N銀はそこまでやるのか」と。 N銀の答えを待っていたかのように、大蔵省は決定会合の四日後の二月十六日、一転して運用部の国債買い入れ再開を発表した。
二カ月前に「大したことじゃあない」と買い入れを打ち切った宮沢が、「やはり大したことじゃあない」と言ったかどうかは、どの新聞にも掲載されていないが。 大蔵・N銀の攻防はひとまず休戦に入った。

しかし、全く同義ではない。 金利を軸にした金融調節の場合、目標とする一定の金利水準に達すると、金利即量的緩和策への転換。
Nにとって、ゼロ金利は金利政策としては未踏の領域には違いないが、景気回復を促すには不十分で、その次の量的緩和の領域も視野に入れるべきとの決意だった。 二月十二日の議長案には、「より潤沢な資金供給を行う」という表現で、このNが主張する量的緩和策の趣旨も一応、取り入れた。
実際、その後、N銀は金融機関の当座預金残高(一日平均約四兆円)を一兆円上回る規模で資金供給を続けていく。 このため、Nは自らの案が一対八で拒否された後、議長案に賛成票を投じた。
だが、ゼロ金利の『不思議の国』に片足を入れる決意をしたばかりの他の委員たちの大半は、Nとは違って、もう一つの片足を明確な目標値を持つ量的緩和策に踏み込む覚悟までは固まっていなかった。 ただ、その中でもう一人、Uは量を意識していた。
ゼロ金利移行後の講演で、「今回の(ゼロ金利)政策は量と金利の中間に位置する政策だといえる」と語っている。 第一章で、最初の政策決定会合でマネタリーベース・ターゲティングを示唆したのはUだと書いたように、U自身は最初から金利政策の限界を見据えていた。
その後、「私自身の感じでは量的緩和策は、むしろ短期金利がゼロになる前にしたほうがいいと思っていた」と語っている。 N銀執行部は一○○一年三月に量的緩和策に切り替えるまで、「金利と量はコインの裏表と同じ」として、量的緩和策に追加効果はないと説明してきた。
コイン論を検証しよう。 金利を引き下げる場合、目標とする金利水準を決めると、市場レートがその水準に達するまでN銀は資金供給する。
一方、量を目標とする場合も、目標量を実現するための資金供給によって金利は下がる。 つまり金利の低下は量を伴い、量の増加は金利低下を伴う。
逆の引き締めの「不思議の国」入りにGが蹟路したのは、市場への副作用が気になったからだった。 「ゼロになった場合に物事がどう動くのか。

短期市場の機能を損なうのではないかと、執行部に質問した。 執行部は一金利はそこで維持される。
これに対して量の政策の場合は、当座預金やマネタリーベースなどに一定の目標を設定し、その目標に現実の量が到達するまでの間、どんどん資金供給をすることから、金利は一定水準に達してもそこでは維持されずに、さらに下がっていくことになる。 逆に資金供給が目標通りに達していると、市場需給で金利が変動しても、政策の変更は必要ないことになる。
つまり金利政策では資金供給量が変動し、量的政策では金利変動を容認する。 量の政策では、金利の反応や、量の目標値が、金融実態と整合性を保つのが難しいといったリスクも伴う。
九八年から審議委員たちの間で非公式に続けてきた勉強会でもこうした議論が重ねられていたという。 Nは二月二十五日の会合で、さらに明瞭な量的緩和策を提案する。
政策決定会合で決める「金融市場調節方針」の文言から、コールレート翌日物に関する記述を削除するとともに、「(銀行がN銀に積み立てる)超過準備額を当面五千億円程度とし、その後次第に増やして九九年第四四半期のマネタリーベスの前年比が一○%程度上昇するよう量的緩和を図る」との議案を提出した。 NとUは時に、お互いの主張の論理性を巡って、公式、非公式の場で火花を散らしたとされる。
Nは、単独でも「次」を先取りした政策提言を目指し、一方のUは政策委全体でいかに合意できる案をまとめるかに腐心し続けた。 両者は火花を散らしながらも、同じように「量」への切り替えを晩んでいた。
挙に下げるというのではなく、市場の機能をみながら下げるということなので、僕は賛成した」その点では執行部も内心、不安だった。 「○・一五%」を当面のメドとしたのも、実のところ、その先で何が起きるか見当が付かなかったためだ。
政策変更を受けた最初の営業日となった二月十五日のコールレート翌日物は当初、○・一五%前後で取引された。 最終的にN銀が思い切って資金供給をしたこともあり、日中の加重平均は○・一二%に。
前営業日から半分以下への低下だった。 翌十六日には、H発言が市場を後押しした。

会見に臨んだHは、「とりあえず○・一五%前後のところで様子を見ようと思ってはいたが、市場の方は非常に早く下げている。 この辺でもう暫く市場の混乱がなければ、もっと下がっても良いと思っている」と述べた。
市場はこれを〃早期のゼロ容認〃と読んだ。 翌十七日のコールレート翌日物の加重平均値は○・○八%へ低下した。
政策委も市場も手探りだった。 その後は、コール市場への資金の出し手である生保や機関投資家などが、資金を金利○・一%の普通預金に回すなどの動きに出たこともあり、コールレートの平均値は○・一二%辺りで一時、下げ渋り状態に陥った。
一月一十五日に採択された議長案は、十二日とほとんど同文だが、一つだけ違った。 「当初、○・一五%前後を目指す」との表現の頭にが付いた点だ。
すでに市場レートは○・一二%前後で、当初目標値以下となっていた。 従って、「その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す」という前回同様の表現は、実は、「現状の○・一二%以下にさらに誘導する」と読める。
実際、N銀も一段の資金供給を続けた。 その結果、一月以降のコールレートは○・○一○・○三%の水準で推移した。

コール市場では短資会社が借り手と貸し手の資金を仲介する。

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